2021年09月10日

野党の候補者調整の意義と課題――2019年参院選の分析から


 次の衆院選は、野党の選挙協力、選挙区調整が鍵になります。2017年衆院選は選挙前に民主党が分裂し、希望の党と立憲民主党に分かれたために、野党は多くの小選挙区で選挙前の段階で負けていました。2021年衆院選では、まだ調整を残している段階ですが、17年と同様の分立状態は回避されそうです。

 ただし、野党の協力に疑義を呈する人々もいます。共産党と協力したら逃げる票もあるとか、そのロジックは何でもいいのですが、あまり有効でないと主張する向きもあるようです。

 そこで、2019年参院選のデータを使い、野党協力の効果について簡単に論じておきたいと思います。


■限定的だった野党統一候補の成功
 2019年参院選の1人区では野党間の候補者調整が行われ、すべての選挙区で野党系の候補が1人となりました。その結果、32選挙区中10選挙区で野党系候補が勝利しました。この結果は、一定の成功を収めたとも表現できる一方、10勝22敗のダブルスコアで負けたとも表現できるものです。

図1a 野党比例区得票率と野・与党選挙区候補得票率差(2019年参院選)



 図1aは、最近「市民連合」と衆院選に向けての政策合意を行った4党(当時の立憲民主党は国民民主党の大部分の議員と合流する前の旧立憲民主党)の比例区得票率の合計を横軸、縦軸に選挙区の野党候補と与党候補の得票率の差を縦軸とした散布図です。この図からはまず次の2点のようなことが読み取れます。

(1)4党の比例区得票率が30%を切る地域では、一部の選挙区では勝利したが、大部分の選挙区では得票率で10ポイント以上の差を付けられて大敗している(3勝19敗)。
(2)4党の比例区得票率が30%を超えると、大敗しなくなり、勝率が大きく上がる(7勝3敗)。

 比例区得票率30%程度で与党に勝利できるのかと思うかもしれませんが、同年比例区には旧国民民主党や維新の会なども出ていましたから、これら他野党に投票した層からも集票しているはずです。なお、自民党と公明党の比例区得票率の合計は48%でした。

 図1aは、野党の支持基盤が比較的厚い一部の地域では野党統一候補の勝率が高く、そうではない地域では勝率が低いという当たり前の結果を示しています。そして、後者の選挙区のほうが多いため、参院1人区では野党統一候補の勝利区が限定的となったわけです。


■都市部で野党統一候補は勝てる可能性が高い
 この結果を見れば、全国的に野党の得票率、支持率が低いので野党統一候補も一部でしか成功しない、と理解してしまうでしょう。

 しかし、ここで見たのは参院の1人区のみです。衆院選を占う意味では野党統一候補が出馬しなかった地域でどうなるか考える必要があります。

図1b 野党比例区得票率と野・与党選挙区候補得票率差(2019年参院選)

 図1bは図1aに複数定数区の位置を加えたものです。ついでに1人区について回帰式を示す線分も加えました。マーカーが重なってわかりにくいですが、複数定数区13選挙区のうち7選挙区で4党得票率が30%を超えています。また、そのうち6選挙区が野党が勝利する可能性がかなり高くなる35%以上となっています。

 もしこれらの地域が1人区だったら、野党統一候補が勝率する可能性はかなり高かったはずです。そして、衆議院の選挙区は全て1人区(小選挙区)です。

 ここで重要なのは、参院1人区は農村的な地域が多数を占めるという点です。自民党の支持基盤が厚く、人口の少ない地域です。一方、野党側がより多く得票している複数定数区は、いずれも都市的と言える人口の多い地域です。4党比例区得票率が高い都道府県は順に東京都、京都府、埼玉県、北海道、神奈川県、千葉県、愛知県です。

図1c 野党比例区得票率と野・与党選挙区候補得票率差(2019年参院選)

 図1cは、図1bを各都道府県の衆院定数(選挙区数)に応じたバブル図にしたものです。ここでは定数の差がわかりやすいように衆院の選挙区数をバブルの直径に比例させています。見ての通り、参院の複数定数区では衆院の選挙区数も多くなっています。衆議院の選挙区定数は先の7都道府県だけで104を数え、32の1人区全体の121に迫ります。

 2017年衆院選において、これら7都道府県104選挙区のうち野党系候補が勝利したのは27選挙区でした。立憲民主党と希望の党のすみ分けが行われた愛知と立憲民主党が強い北海道を除けば、野党は77選挙区中15しか勝利していません。この77選挙区で参院同様7割の勝率となれば野党は40近く議席を増やすことになります。勝率5割でも20以上の議席を与党から奪うことになります。

 10勝22敗という参院1人区の結果だけを見ると、野党統一候補の成功は限定的のように感じられますが、衆院選を念頭にこれが都市部にも広がったらという観点で見れば、その見方に修正が必要となるのです。


■来る衆院選での限界
 もっとも、以上の議論はそう都合よくはいきません。次回衆院選での野党間の選挙協力は、前回参院選の1人区ほどの統一性はなく、いまだに調整が続いている選挙区が多数あります。前回の参院1人区では日本維新の会が候補を擁立しませんでしたが、衆院選では東日本でも多くの選挙区で候補を擁立する予定です。

 維新の候補が与党と野党のどちらを妨げるかは読みにくいですが、無党派の票を集めたい野党にとっては良い材料とは言えないでしょう。そのため、現状では政権交代が起きるほどには野党の選挙協力が成功することはないだろうと考えられます。

 とはいえ、候補が統一される効果は大きいものがあります。バラバラに戦えば新聞等の情勢報道の時点で与党候補「優位に立つ」と書かれます。これを「わずかに先行」、「横一線」くらいの表現の接戦にできれば、選挙自体への関心が高まり野党候補に票が集まりやすくなるでしょう。

 先日プレジデントオンラインに寄稿した「「世論調査では自民党支持は底堅いが…」秋の衆院選で政権交代の可能性がゼロとはいえない理由」で取り上げた横浜市長選の例も、有力候補と認識されたからこそ無党派層が最終的に野党系候補に集まったのだと考えられます。

 なお、同記事の中で述べた野党分立状態の収拾により与党が議席を減らす可能性があるという指摘は、本エントリで示したような観察から来ています。

※プレジデントオンラインの記事はしばらくすると会員以外読めなくなるようです。今のうちにお読みいただければ。

 以上の議論は、実は参院選挙制度が孕む問題とも関係しています。この議論の詳細は以前のエントリー(下記)を参照していただければと思います。2019年参院選でも、もし都市部の都道府県が複数区ではなく複数の1人区であれば野党が勝利していた可能性もあるでしょう。そして、仮に2021年衆院選で野党が政権を奪取したとしても、2022年参院選でいかに勝利するかが課題となってくるでしょう。

参議院選挙制度最大の問題―自民党に下駄を履かせる「小中混合制」


【追記】
 国会議員白書の衆議院議員のデータを更新しました。あちらもご利用ください。
posted by suga at 15:00 | 分析記事