2020年11月04日

「大阪都構想」への理解度が高い人ほど同構想に反対する・・・という分析結果は怪しいので気を付けましょう


 先日行われた「大阪都構想」をめぐる住民投票を前に、同構想に関する理解度が高いほどこれに反対し、理解度が低いほど賛成に回るといった内容の「調査結果」が公表され、ツイッター等で出回っていたようです。しかし、すでに記事タイトルに示したよう、この分析結果は怪しいものであり、真に受けてはいけません。

 なぜそのように言えるのか、簡単に解説しておきます。



 解説に入る前に、「調査結果」のpdfへのリンクを置いておきます。読みたい方はどうぞ。このインターネット調査では、大阪都構想に関する回答者の理解度を測る質問を7つ設定し、報告書ではその正答数を理解度の指標としています。

「いわゆる「大阪都構想」についての大阪市民の理解度に関する調査結果」(京都大学レジリエンス実践ユニット)
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/documents/tokoso2020survey.pdf


■否定に偏る出題傾向のため反対派の正解率が高くなった可能性がある

 この7つの質問は、A、B2つの文章のうち、正しいと思われる文章を選択する形式となっています。7問2つずつの各文章を読んでいくと、都構想の期待や印象を落とす形の問題となっています。
 (1)大阪「都」になるかと思ったらならない、(2)大阪市は“大きな権限を持つ”政令市のままだと思ったら政令市でなくなる、(3)都構想を実施すると大阪市はなくなる、(4)4分割されて大阪市は残らない、(5)無くなった大阪市は元に戻せない、(6)大阪市を継承する特別区の財源総額は減る、(7)特別区の権限は無くなってしまう現在の大阪市よりも小さい、という感じです。

 各問の関連性がかなり強く、「わかっている人」は数珠繋ぎに正解しやすくなっていますが、ひとまずこの点は置いておきます。

 さて、このような問題を出したとき、無知識の人はどのように回答するでしょうか。
 正直に「分からない」を選ぶ人も多いでしょうが、フィーリングで選ぶ人もいます。このとき反対派であれば、よくわからないけどなんとなく否定的な文を選び、賛成派であれば、よくわからないけどなんとなく肯定的な文を選ぶことが多くなるでしょう。

 そうだとすれば、この調査の各問の「正解」は否定的な側に固まっているので、無知識で答えたとしても、結果的に都構想反対派の人は賛成派の人よりも正解率は高くなります。


■反対派ほど知っている論点が出題されたため反対派の正解率が高くなった可能性がある

 ただし、実際には無知識な人はそれほどは多くはないようで、特に前の5問についてはいずれも正解率が過半を超えているようです。また、大阪都構想賛成/反対で正解/不正解率にそれほど大きな差は開いていません。少なくともこのインターネットアンケート調査の多くの回答者にとっては「大阪都は生まれず、大阪市がなくなること」は常識だったようです。

 より大きな差が生じているのは(6)、(7)です。両問で賛成派、反対派の不正解率差が広がった理由としては、

@前5問に比較して難しい問題であるため、知識ではなく印象による選択がより多くなった

 ことに加えて、

Aこれらの論点(都構想の負の側面)は賛成派よりも反対派内で特に広まっていた

という可能性を指摘できます。実際、「特別区 デメリット」などで検索してみると、反対派向けにこれらの論点がレクチャーされていることが多いようです。

【参考】下記URLが「悪い」というわけではありません。あくまで例示です。

「特別区設置のデメリット」(「都構想」ポータル)

横田一「政令指定都市から特別区への“格下げ”となる都構想のデメリットに、大阪市民も気づいてきた」(ハーバー・ビジネス・オンライン)

新 今さら聞けない大阪都構想

 これを言い換えると、この調査は「都構想の理解度」に加えて、都構想反対派の論点やロジックをどれだけ知っているかということを問うていることになります。そうすると、当然反対派の正解率は高くなります。

 以上の指摘は、大阪都構想を例に取ると大阪外の多くの人にとってはわかりにくいと思いますので、第2次安倍政権を例にしてみましょう。

 たとえば、「安倍政権の理解度」を聞く質問のテーマが、集団的自衛権やモリカケ、IRや河井夫妻など汚職関連に偏っていれば、おそらく安倍内閣不支持の野党支持者の正解率が高くなるでしょう。
 一方、「安倍政権の理解度」を聞く質問のテーマが、各種経済政策の詳細や「首相秘書官に初めて女性を登用した」等の「業績」に関する質問に偏っていれば、おそらく安倍内閣・与党支持者ほど正解率は高くなるでしょう。


■本当に「都構想賛成派の市民ほど誤った認識を持っている」と言える分析結果か

 以上を念頭にもう一度「調査結果」を見れば、これに示された分析結果もかなり怪しいものと気が付けるかもしれません。

 下の図は「正確な基礎知識を持つ市民ほど、都構想には「反対」」を示すとして報告のトップを飾っているものです。確かに、6問以上正解者では反対の割合が高くなっています。一方、賛成派の割合は6問以上正解になると急落しています。

大阪都構想理解度調査の実際

 ただ、この図をよくよく見ると、正解5問までの傾向と6問以上とでかなり違うことがわかります。下の図は、正解6、7問の部分を消してみたものです。これを見ると、5問目までは正解数が増えても反対割合は上昇していない一方、賛成割合は増えているように見えます。また、別の見方をすれば、正解数1〜5では賛成割合が反対割合を上回っています。

大阪都構想理解度調査の実際

 大阪都構想賛成者の正解率が特に低いのは(6)(7)でした。この両問の解答傾向が正解5問までと6問以上の傾向の断絶を生み出していると推測されます。したがって、もし(6)(7)が無ければ、「正確な基礎知識を持つ市民ほど、都構想には「賛成」」と捉えられる傾向が出てきた可能性があったと言えます。

 (6)(7)は、「二重行政の解消」という大阪都構想推進側の主張を、反対派の立場から言い直したものと言えます。賛成派にとっては言わば「ひっかけ問題」のようなものですね。都構想反対の立場である調査・分析者は、この「ひっかけ」問題によって、「知識があるほど大阪都構想に反対」と喧伝できる材料を作りだすことに成功したわけです。


■自説に都合の良い分析結果はまず疑いましょう

 一般的な話をしますが、何らかのテストで理解度を測ることは案外難しいものです。たとえば「一般常識テスト」という名称でテストを行ったとしても、義務教育レベルの知識を問うものと、時事ニュースや芸能関係の知識を問うものとで、高得点/低得点となる人はそれぞれ異なるでしょう。

 入試や期末テストの類とは異なり、この手のアンケート調査では回答者は事前の準備をしていません。出題傾向を偏らせれば特定の層を狙って「正解率」を動かすことも可能と言えます。もちろん、今回の調査者はそんなこと意図していなかった可能性もありますが、それはそれで都構想反対の立場からの「知識」が問題に滲み出てしまったということで、プロフェッショナルではないです。

 念のために述べておきますが、以上の議論は「「大阪都構想」への理解度が高い人ほど同構想に反対する」という仮説を直接否定するものではありません。まして「理解度が高い人ほど賛成する」といったことを主張するものではありません。調査と分析のやり方が酷いから触れるな、という話です。

 SNS等をあまり見ていなかったのでわかりませんが、研究者等でこの「調査結果」に踊らされた方がいないことを祈ります。都構想反対派で踊らされ宣伝に加担してしまった方はご愁傷さまでした。データや分析を読解する能力が低ければ、「京都大学」の名前で出てきたものを怪しむ隙はないですよね。とはいえ、自説に都合の良いデータや分析結果は最初に疑う癖をつけていただければと思います。

菅原 琢
タグ:世論調査
posted by suga at 00:43 | 分析記事