2020年10月15日

菅原琢「「保守化」の昭和史――政治状況の責任を負わされる有権者」小熊英二・樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』慶應義塾大学出版会、2020年、pp.73-118。


 共著で1章担当した本、小熊英二・樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』(慶應義塾大学出版会、2020年)が出版されました。寄稿した論文の内容を紹介します。



「保守化」の昭和史――政治状況の責任を負わされる有権者

 ―構成―
1 「保守化」言説を探る意義

2 「青年の保守化」論争と六〇年代の世論調査
2-1 社会党の党内抗争と青年問題
2-2 「保守化」=社会党支持率の低下
2-3 広がる「青年の保守化」論
2-4 「青年の保守化」論の退潮
2-5 不定期世論調査が強調した「青年の保守化」


3 「保守回帰」と七〇年代後半の選挙結果
3-1 新聞で流行した「保守回帰」
3-2 地方選の「保守回帰」の実際
3-3 自民党が低迷した七九年衆院選の謎
3-4 支持率低迷期に“善戦”した自民党
3-5 「保守回帰」は人々の保守化を意味するか


4 浮動的有権者像と八〇年代の選挙結果波動
4-1 生活保守主義の登場
4-2 新中間大衆論による選挙結果の説明
4-3 実証を欠く浮動的有権者像
4-4 選挙結果波動のメカニズム
4-5 温存された八〇年代の日本人保守化論


5 繰り返された日本人保守化論の背景

菅原琢「「保守化」の昭和史――政治状況の責任を負わされる有権者」小熊英二・樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』慶應義塾大学出版会、2020年、pp.73-118。





 今回の論文では、昭和期の「保守化」言説を3つの時期に分けてその経過を説明し、検証しています。

 「右傾化」の本なのに「保守化」とはどういうことだとお思いの方もいるかもしれません。執筆依頼を受けたときに、構成案では「世論」の「歴史的変遷」を担当するということになっており、編者サイドとしては何らかの調査の意見分布の長期的推移のグラフなどを示して解説するようなものをご所望だったようなのですが、そうしたものは方法論から不可避的な難があり、そもそも大したことも言えなそうだし、そんなの院生捕まえて指示通り書かせたらいいんだよとにかく自分はそういうの書きたくないやだやだと駄々をこねてこうなりました。編者のお二人とも言いやがったなコイツという反応でしたが。

 実際のところ、ネットを想起すればわかるとおり、現在「右傾化」的と考えられている人々の行動や意識の類はごく最近特有のものでしかありません。時系列比較可能なデータも僅少で、歴史的と呼びうるほど長期の観察に耐えうる現象ではなく、「歴史的変遷」という要望自体がかなりキツい要件なのです。それで、「右傾化」という言葉が世論や人々の意識に当たり前のように使用されるようになったのは21世紀以降であることなどを説明し、その線での執筆はお断りいたしました。そのうえで、過去の世論の「保守化」と「右傾化」に関する言説や分析を整理し、批判的に検証し、比較するような論文でどうかと提案し、了承されたので書くことになったのです。

 「右傾化」の用例を示したことからわかるように、こちらの線では事前の蓄積がありました。ただ、実際に書いてみると圧縮、節約して書いたのに簡単に5万字を突破してしまい、さすがに長いから短くしてくれと言われたので、「右傾化」部分を落とし、実証を簡略化し、各「論」の説明や意味付けなども省いたのが出版されたバージョンです。元の原稿比でだいたい半分くらいになっています。

 肝心の内容ですが、構成を見ていただくのがわかりやすいと思います。昭和期に流行った「保守化」言説、日本人保守化論を時期別に3つに分け、その内容、背景、根拠とされたデータを紹介し、検証しています。

 「青年の保守化」は60年安保闘争後の社会党の内紛と退潮と密接に絡む議論です。「保守回帰」は革新自治体が興隆した70年代初期から半ばにかけての保革伯仲期を抜け、自民党が復調しだしたあたりの議論、というか雰囲気のようなものです。浮動的有権者像は、80年代の乱高下する選挙結果も含めて自民党の復調とする諸議論(生活保守主義、新中間大衆論など)の拠り所でした。各節では、これらの説明は正しいのか、実際にはどう解するべきなのか、論じています。

 ご購入の上、お読みいただければ幸いです。

日本は「右傾化」したのか
小熊英二・樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』(慶應義塾大学出版会、2020年)

posted by suga at 21:00 | お知らせ