2020年東京都知事選挙は現職の小池百合子都知事の圧勝に終わりました。ツイッターなどでは野党側の敗因についての分析というか個人的主張が溢れていて、勝ったほうの分析があまりないようなので簡単にデータで示しておきたいと思います。
図1は小池百合子候補の自治体別得票率を前回と今回で比較したものです。見ての通り右側のほう、都下西部、町村部、島嶼部といったあたりで大きく得票率を伸ばしていることがわかります。一応述べておけば、東京都区部は都下に比べて有権者数が多いため、得票数の伸びは東京都東部(図の左側)で稼いでいます。
図2は同じデータを散布図で見たものです。分布は右下がりの負の相関関係を示しています(相関係数-0.53)。つまり、前回苦手としていたところで大きく得票率を伸ばしたということです。これは何故でしょうか?
図3は前回政権与党である自民党と公明党が擁立した増田寛也候補の得票率と小池百合子候補の得票率増減(減ってないですが)との関係を見たものです。見ての通り、ものすごく相関しています(相関係数0.93)。自治体規模でウェイトかけてもこの相関関係の強さはきっと変わらないでしょう。報道などでは忘れられがちですが、今回小池候補が圧勝したのは前回自民党と公明党が擁立した候補に投票した両党の忠実な支持者を今回獲得できたことが大きいということです。
ただし、図3で注意してみないといけないのは、相関の傾きがかなり急だということです。前回増田候補が強かった地域では順当かそれ以上に小池候補が得票率を伸ばしているのに対して、増田候補が弱かった地域では弱ければ弱いほど小池候補の得票率も伸びていないのです。散布図を見るときは、分布の綺麗さや相関係数だけでなく傾きにも注意し、実際のデータの“量”も確認しましょうということです。
図4は増田候補の得票率と小池候補の得票率増減の地域別傾向を図1と同様に折れ線グラフで見たものです。都下西部、町村部、島嶼部といったあたりでは増田候補の得票率と小池候補の増減は近く、小池候補が増田候補の票をよく吸収していることがうかがえます。しかし、特に都区部では吸収しきれていないようです。
図5は、図4の小池候補の得票率の増減に、日本維新の会推薦の小野泰輔候補の得票率を積み上げて棒グラフとしたものです。この棒グラフは前回増田候補の得票率にかなり一致しているように見えます。
このグラフを単純に解釈すれば、前回選挙で小池候補の出馬にもかかわらず増田候補に投じたような忠実な自民党支持者は都下西部、町村部、島嶼部といったあたりでは小池候補にシフトしたものの、都区部を中心とした東部では維新の候補に流出した、ということになるでしょう。
この仮説は、現在の忠実な自民党支持者には伝統的な支持層と、新自由主義的な新しい支持層がいるのだという議論に繋がりそうです。
もう少し複雑に解釈すれば、前回選挙で小池候補の出馬にもかかわらず増田候補に投じたような忠実な自民党支持者の多くは小池候補にシフトした一方で、前回小池候補に投票したうち都区部を中心とした一部が、維新の会候補の登場により流出した、という物語も採用できます。
この仮説を言い換えると、新自由主義的な新しい自民党支持層は前回から小池候補に投票しており、その一部が今回はより好ましい維新の候補に流れたということです。
この仮説に、都区部の経営者、自営業の人々が新型コロナウイルス感染症対策で小池候補から離反して云々といった意味付けを添えても面白いでしょう。
図6では小野候補と参院選比例区での維新の会の得票率を比較しましたが、都心部では明らかに維新の会の支持票を超えて小野候補が得票しています。この傾向が、これらの地域で自民もしくは小池に投票したくない何らかの理由がある層が多かったということを示すのであれば、経営者層離反仮説に近づくでしょう。もっとも、都心部以外での小野候補の組織、運動が不足していたことを示すと考えることもできますが。
これらの仮説がそれぞれどれくらい投票行動を説明できるか、どちらがより説得的かは、有権者単位の政治意識と投票行動のデータを見て判断する必要があるので、ここでは仮説を投げるだけにとどめておきます。
いずれにしても大事なのは、小池候補等の得票率の背景を考える際には、自民党と公明党の支持層の動きも合わせて考える必要があるということです。候補に投票する選挙制度では、得票数や率を純粋に候補の人気と捉えてしまいがちですが、小池都知事の圧勝は「有権者の小池人気」のみを示すのではなく、対抗できる候補を用意できなかった与党と野党の弱さの結果でもあるのです。
次のエントリでは、野党系2候補の地域別得票構造について考察してみたいと思います。
関連して、横軸カテゴリの折れ線グラフの有用性という記事を書きました。こちらもどうぞ。
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