Prof. Nemuroというアカウントがここでまとめた内容を典拠なく利用した記事をnoteに上げています。ご注意いただければ。
https://megalodon.jp/2020-0128-2022-57/https://note.com:443/prof_nemuro/n/n53a85c81b6e3
安倍首相の施政方針演説で、島根県江津市が「若者の起業を積極的に促した結果、ついに、一昨年、転入が転出を上回り、人口の社会増が実現しました」と述べられていました。
太平洋ベルト外の人口流出自治体が、工場の立地や公共事業を理由とした大規模転入を介さずに、普通に雇用を創出して社会増を達成するのはなかなか難しいと思います。なので何か裏があるのではと直感しました。その調べた結果を1月28日朝に長々ツイートしたのでこのエントリでまとめておきます。
なお、実際にデータを示して確認したエントリが別にあります。合わせてお読みいただければ。
→安倍首相演説:島根県江津市の転入が増えたのは若者の起業促進策が成功したからでなく〇〇〇〇のため
事前にある程度調べて考えた結果を流しているとはいえ、不可思議なデータ言及に出くわしたときにどのように捉え、どのように調べるのか、参考になると思います。数字が事実かどうかまず調べ、その背景を探ることができる詳細なデータを確認するというのが基本です。
読むのが面倒という人もいると思うので、結論を述べておけば、確かにある一定期間について転入が転出を上回る社会増となっていたが、それは15-19歳男性の就学による転入が統計上急増したことによるものであり、ほとんどは若者の起業により生じたものではないと推測される、となります。
以下の記事、本題よりもこの部分が気になりました。
「首相は演説で「(略)そのうえで、若者の起業促進策を受けて「一昨年、転入が転出を上回った」とした。」
石破氏、首相演説の「東京から一番遠いまち」を検証:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASN1T7KCTN1TUTFK001.html
演説原稿「一昨年、転入が転出を上回り、人口の社会増が実現しました。」
首相官邸「第二百一回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説」
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0120shiseihoushin.html
毎日新聞「18年に転入者が転出者を上回ったことなどを紹介」
首相が演説で地方創生の成功例として紹介した男性、島根県外に転居していた - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20200121/k00/00m/010/279000c
人口の転出入(社会増減)は、「住民基本台帳人口移動報告」から取ると思うのですが、調べたところ18年度の統計で江津市は転出入マイナスの社会減でした(下記第10表参照)。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200523&tstat=000000070001&cycle=7&year=20180&month=0&tclass1=000001011680&result_back=1
これは集計期間の違い等、別の理由も考えられますが、調べていて気になったのは下記記事。
江津市:社会増モデルに 創業・移住促進、内閣府が評価 11日講演会 /島根 - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20170906/ddl/k32/010/416000c
「内閣府が4月に実施した「人口の社会増減に関する調査」で、転入が転出を上回る社会増の実現モデル市に、県内から江津市が」とあるけど、「"人口の社会増減に関する調査" 内閣府」でそれらしい「調査」はヒットしない。
かわりに行き着いたのがこれ。
移住・定住施策の好事例集(第1弾)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/wakuwaku_kaigi/h30-02-14-sankou.pdf…
演説で言及された転出入とは異なるかもしれませんが、計算式が。
国勢調査(総務省)の人口増減から人口動態統計(厚労省)の自然増減を、両統計の期間をあれやこれや調整しつつマイナスして社会増減としたらしい。。。
出所が異なるデータを切った貼ったするのはやばいと拙著でも書いたことがあるような。データを実際に扱わないとわかりませんが、この場合、たとえば大病院のある自治体に死亡数(自然減)が寄ったりすれば、社会増減として意味のある数字は計算されないように思いますが。
いずれにしても、転出入は出産、進学や老人ホームへの入所などでも生じるので、転出入数の動向のみを移住政策の成否の判断材料にすることはできないでしょうね。
まあ、これに限らず、地方創生界隈は自治体が関わっていることも相まってデータの扱いがめちゃくちゃなのが多い印象を持ちますね。
一応言っておくと、江津市の2018年の社会減4(外国人含む。日本人のみでは13減。つまり外国人は9増。)は周辺と比べても「頑張っている」ほうだと思います。女性は-41と大きく転出超過なのに男性は+37なので、何らかの職場等が効果を発揮していると想像することはできます。
さらに調べているのですが、17年10月-18年9月の集計で、江津市の社会増減が+27となっている資料を見つけました。
https://pref.shimane-toukei.jp/index.php?view=20602
これを見ると、移動理由もわかりますね。
これの第12表(市町村・移動理由別移動者数)によると、転入−転出の原因のうち最大は「就学・卒業」+42、次いで結婚・離婚等+26、一方、転職・転業+13、就職-23など仕事関係は合計でマイナスの模様。
2017年、2016年、2015年と「就学・卒業」は大きくマイナスなので、18年にこれがプラスに転じたということは、何らかの教育機関が立地したことが社会増の背景にありそうですね。
それで、人口移動報告の月報のほうを見ると、18年4月中に江津市の「就学・卒業」の転入が82となっており、前年の21から激増していることがわかります。
一方、江津市の高等教育機関で新たに設立されたり定員を大幅に増やしたような動きは今のところ発見できていません。そうなると、「就学」の定義に何かあるのかもしれません。
就学がカギになるとすれば、次に見るのは年齢別の転出入です。住民基本台帳人口移動報告の2018と2017を第16表で比較すると、15-19歳の転入が39→124と3倍に増えています。加えてotherも9から55に。他の年齢層はほぼ10以下の差しかありません。
15-19歳の転入を男女別にみると、総数の動き同様に男性のみ動いているようです。一方、other(従前の住所が不詳の者及び転出から転入までの期間が1年以上の者など)の転入は外国人女性が多数を占める模様。
後者は近年江津でベトナム人実習生が増加しているとの報道があるので、これが統計上反映されるようになったことが要因のようです。
15-19歳男性の転入急増の背景は就学と関係ありそうという以外謎です。ただ、国勢調査によれば、もともとこの年齢層の男性の施設等居住割合(おそらく大部分は学生寮)は著しく高かったので、これが何らかの理由で住基台帳にも反映されるようになったと考えるのが、今のところ最も説明しやすいです。
要するに、学生寮入居者は住民票を移動していなかったのが、18年入学者あたりから移動させるようになったことが、江津市の転入増の背景ではと。そうだとすれば、1-2年後には転出増となって返ってくるはず。
いずれにしても、この種の転出入の増減から、地方創生政策が当たったとするのは無理がある。15-19歳男性の就学を理由とする転入が「若者の起業を積極的に促した結果」(施政方針演説より)というのはさすがに考えにくいでしょう。
以上の議論をデータで確認したい方はこちら↓
島根県江津市の転入が増えたのは若者の起業促進策が成功したからでなく〇〇〇〇のため
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