2019年09月07日

世論調査は人々の意見を正しく反映しているのか(後編) 政治から遠ざかる人々の声をいかに拾うか

 第9回世論・選挙調査研究大会(2019年9月21日)のパネル・ディスカッション「出口調査、世論調査、まだ大丈夫だったか?」に討論者として登壇することになりました。今回の討論では、デジタル毎日「政治プレミア」に寄稿した全2回の記事「世論調査は人々の意見を正しく反映しているのか」で論じた内容を下敷きに論点を提示する予定です。この記事は会員でないと閲覧できないことから、こちらでも公開することとしました。
 なお、毎日新聞提供の調査の細かい数字に関してはこちらで詳細を公開いたしません。表では※と表記し、グラフでは範囲をぼかしていますので、気になる方は「政治プレミア」でご確認ください。

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元記事:菅原琢「世論調査は人々の意見を正しく反映しているのか(後編) 政治から遠ざかる人々の声をいかに拾うか」(デジタル毎日「政治プレミア」)


世論調査は人々の意見を正しく反映しているのか(後編) 政治から遠ざかる人々の声をいかに拾うか(2019年5月14日公開)

 前編では、マスメディアの世論調査の回答者が有権者全体の「縮図」となっていないのではと指摘した。今回は、回答者の構成にどのようなゆがみが生じているのか例示したうえで、有権者全体の世論を知るために何をすればよいか考えていきたい。



投票者が過剰に含まれる「縮図」
 前編の最後で、比較した三つの調査のいずれでも、「投票に必ず行く」と答える人の割合が高く、実際の有効投票率を超えていたことを報告した。そこでまず、これら回答者が実際に投票に行ったのかを確認したい。固定RDS、オートコールRDSでは選挙後の調査を行っていないことから、ネット調査のみで“答え合わせ”をすることになる。(※詳しくは前編参照)

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 図1は、投票2週間前の投票予定別に選挙後調査での投票行動を集計したものである。DK/NAは「答えない/わからない」を示す。選挙後調査回答者全体の投票率を示す「計」の値は79.0%となっており、実際の北海道知事選の有効投票率(57.7%)に比べてかなり高くなっている。投票に「必ず行く」とした回答者の95%以上が投票に行き、「行かない」とした回答者の90%以上が棄権しており、事前の予定の通りに行動した人が大半である。

 仮に、この予定と実際の関係が前回紹介した固定RDSとオートコールRDSでも同様だとしたら、両調査回答者の投票率もかなり高くなる。ネット調査回答者の投票予定別の投票率を固定RDSとオートコールRDSの各予定割合に乗じて集計すると、それぞれ8※%、9※%というかなり高い値となる。

 前編で紹介したように、他社の選挙後調査でも投票率は高くなっていた。マスメディアの世論調査の回答者は、投票に行きがちな人々がかなり過大に代表されているという点で、有権者全体のゆがんだ「縮図」となっていることは確かなのである。


調査結果はなぜゆがんでしまうのか
 前回、世論調査の投票予定と実際の投票率にズレが生じる理由として、回答者の気が変わった、回答者がうそをついていた、投票予定者が過剰に含まれていた(回答者が有権者全体からゆがんでいた)という三つを示したが、この回答傾向を信じる限り気が変わった回答者はあまりおらず、“ズレ”を説明しないことがわかる。

 残る理由はうそと回答者のゆがみとなるが、残念ながら調査の回答がうそかどうかを判別することはできない。以下では、回答者が正しく回答したと仮定したうえで、回答者の有権者全体からのゆがみについて確認していきたい。その前に、なぜ調査回答者の構成が全体からゆがむのか、その過程を簡単に整理しておく。

 RDS法による調査対象者は、電話番号をランダムに生成する → 電話をかける → 有権者世帯の電話であることを確認する → 世帯内の有権者数を教えてもらう → 各電話番号先の有権者内で無作為に対象者を指定する → 指定した対象者に電話を代わってもらい質問を開始する、というような過程を経て集められる。

 調査の際、すべての有効な電話番号で応答があり、すべての対象者が回答するなら、少なくとも固定電話利用世帯に関しては有権者の「縮図」は全体からあまりゆがまない。しかし実際には、かけた電話に誰も出ない、電話はかかるも有権者数すら教えてもらえない、対象者を選んでもつかまらない、そして回答を拒否されることが高確率で発生する。

 このとき回答拒否や不在が政治意識と相関しないのなら、調査結果が全体からあまりずれることがなく大きな問題とはならない。だが現実には政治関心が高い人ほど積極的に調査に協力し、政治に興味のない人ほど調査に回答する時間を惜しむはずである。家を不在にしがちな多忙な人とそうでない人との間に政治や社会に関する意識に差があることも想像できる。こうして、回答者の構成が「全体の縮図」から離れるだけでなく、回答分布もゆがんでしまうのである。




「縮図」のゆがみを知る方法と限界
 回答者が「全体の縮図」からどのように乖離(かいり)しているかを調べるためには、マスメディアの世論調査の回答者についてその属性、特徴を調べ、実際に「全体」と比較するのが筋道である。

 しかし、回答者や回答分布がどの程度、どのようにゆがんでいるかについて、通常のマスメディアの世論調査からはほとんど知ることができない。「全体」と比較するための質問がほとんど含まれていないためである。これは調査者の怠慢のようにも思えるが、電話調査では細かい質問、選択肢を設定することが難しいことも背景にあると思われる。

 そこで今回、われわれはネット調査を固定RDS、オートコールRDSとほぼ同日程で行ったうえで、ネット調査回答者に対し選挙後に追跡調査を行った。追跡調査では、実際の投票行動に加えていくつか「全体」と比較可能なデータを集めるための質問を行った。これにより、政治関連の調査に回答しがち、投票に行きがちな人々がどういう属性、特徴を有しているのかを知ることができる。さらに、マスメディアの世論調査回答者にどのようなゆがみが生じているのか論じることができる。

 もちろん、RDS法の電話調査とネット調査とでは対象者の選び方、実際に回答するか否かの過程に違いがあるため、ネット調査の傾向が電話調査にそのまま当てはまるとは限らない。しかし、政治関心が高い人ほど回答者になりやすく、多忙な人ほど回答者になりにくいといった背景は同様と考えられ、マスメディア世論調査の問題点を論じる際の参考材料にはなると考えた。


低い正社員割合
 今回のネット調査は、北海道の性別・年齢層構成に合わせて回答者を集めたため、性別、年齢層に関しては全体(北海道の有権者全体の性別・年齢層別の人口分布)からほとんどゆがんでいない。一般に、有権者の属性として性別、年齢の次に考慮されるのは職業である。

 前回比較した三つの調査のうち、固定RDSでは職業について質問しており、ネット調査では調査会社から提供される基本属性のひとつとして職業分類がある。これらの分布は表1に示したとおりである。

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 ここでの問いは、これが北海道の有権者全体からゆがんでいるかどうか、である。しかし、ここで問題が生じる。表1のような職業分類は、職の有無、雇用・被雇用、産業、職場での地位、雇用形態など多様な次元が混ざっているが、公的統計では各次元を別個の項目として聞かれる。つまり、ここで示した職業分類に直接該当するような基本的な統計はなく、「全体」と調査結果との比較が簡単にはできない。

 そこでネット追跡調査では、就業構造基本調査および国勢調査の「就業状況」、「従業上の地位」、「雇用形態」に準じた職業に関する質問をひとつ置き、これを比較することとした。このうち「就業状況」(職の有無、および無業者内の構成)に関しては就業構造基本調査および国勢調査とネット追跡調査の間に重要と思われる差はなかった。

 表2は、就業構造基本調査(2017年)、国勢調査(2015年)、ネット追跡調査について、有業者の「従業上の地位」、「雇用形態」の構成比を比較したものである。上部の3項目(自営業主、家族従業者、会社役員等)に関して差が見られるが、これらは調査票の設計や選択肢の名称の違いにより生じたと思われる。(統計的に有意な差はあるが)全体に占めるシェアも小さいため、ここでは詳しく論じない。

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 有業者内の構成における最も重要と思われる差は、「正規職員・従業員」(以下、正社員)と非正規雇用の割合である。ネット追跡調査では、二つの公的統計に比較して正社員の割合が低く、非正規雇用の割合が高い。

 正社員の回答者割合が低くなるのは、労働時間の長さがひとつの要因と考えられる。在宅時間が短い、自由時間が短いなどの理由により、結果的に調査依頼に接する、応じる確率が低くなるのであれば、ネット調査だけでなく電話調査でも同様のゆがみが生じていると想像することができる。

 一方で、調査過程を踏まえれば正社員割合が低いのはネット調査独自の傾向の可能性もある。ネット調査では、回答者へ謝礼(少額の“ポイント”など)を支払うが、多くの人々はこの謝礼を獲得することを目的にモニター登録をしていると考えられる。このとき、平均的に見て所得の高い正規雇用の人々よりも、より所得が低く時間に余裕のある非正規雇用の人々のほうがモニターに登録し、回答する傾向が生じていても不思議ではない。

 ただいずれにしても、この正社員/非正規雇用の割合のゆがみは先に示した回答者の投票率に代表される調査結果のゆがみとはあまり関係せず、この意味ではそれほど重要なゆがみではない。ネット調査の回答者に占める正社員の割合が増えたとしても、彼らの投票率(80.9%)は回答者全体よりも高いため、何らかの方法で分布のゆがみを是正したとしても投票率の差は埋まらないのである。




賃貸住宅居住者は棄権する傾向
 次に紹介したいのは、住んでいる家が持ち家か借家かの分布である。住宅・土地統計調査、国勢調査では、これを「住宅の所有の関係」と呼称している。

 表3では、二つの政府統計における北海道在住者の「住宅の所有の関係」の割合とネット追跡調査の回答分布とを比較している。なお、都道府県別の統計表では年齢別の集計結果が公開されていないが、国勢調査の全国集計によれば持ち家・賃貸居住者の19歳以下人口割合に大差がなかったことから、19歳以下も含めた人口を示している。

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 この表からは、ネット調査は実際に比べて持ち家居住者の割合が若干高いことがわかる。また、賃貸住宅居住者は投票率が低いこともわかる。ここから、持ち家・借家の分布のゆがみは調査回答者の回答結果のゆがみにも影響を与えていると考えることができる。

 住んでいる住居が持ち家か借家かは、特に年齢の影響を強く受ける。親元から独立後の若いうちは賃貸住宅に住んでいる人の割合は当然高い。また、周知のとおり若年層ほど投票率は低い。したがって、持ち家居住者の投票率の高さは居住者の年齢の高さにより生じたものと見ることもできる。しかし、図2に示すように、年齢層別に分けて見た場合でも持ち家居住者に比べて借家居住者のほうが棄権・無効票率は高い。

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 このように、持ち家居住者か借家居住者かという分布に関して、ネット追跡調査の回答者は有権者全体に対してゆがんでいることは明らかである。おそらくRDS法の世論調査の回答者も同様である。持ち家か否かと固定電話の利用状況とは密接に関係するためである。

 しかし、この分布のゆがみ自体は大きくなく、調査結果を大きくゆがませている要因ではない。たとえば、試しに国勢調査の持ち家/借家割合を適用してネット追跡調査の投票率を計算しても、全体の投票率は1ポイントも下がらない。


属性のゆがみは調査結果を大きくはゆがませない
 ここまで職業と住宅に関する分布のゆがみについて紹介したが、結婚・未婚や居住年数など、ネット調査回答者と実際の分布との間に違いのある属性はほかにもある。さらに調査を行えば、同様にゆがんだ分布となる属性をいくつか発見できるだろう。

 しかしここで注意したいのは、いずれの分布のゆがみも調査結果に対する影響は軽微な点である。このため、分布のゆがみを是正できたところで調査結果が劇的に変わることはなく、調査結果のゆがみを正すことはほとんどできない。

 前編では、マスメディア各社がRDS法の電話調査に携帯電話を含め、回答者内の若年層を増やしても調査結果があまり変わらなかったことを紹介したが、これも同じことである。「世論調査に答える若者」の数を増やしても、投票を棄権するような回答者の割合はあまり増えない。年齢、性別、職業のような人々の属性のゆがみは、世論調査結果が現実から乖離している最大の要因ではないのである。

 この記事の前半で述べたように、人々が世論調査に回答しない理由はさまざまに考えられるが、属性のゆがみは人々が回答しない結果として生じているのであって、多くの場合、属性が世論調査に回答しない直接的な理由となるわけではない。属性レベルのみで回答者を全体に似せたところで、全体の縮図を作ることは不可能なのである。

 世論調査に回答する/回答しないに政治関心の程度が影響するのだとすれば、結局のところ、属性だけではなく意識レベルで回答者を全体に似せていかなければならないと言える。もっとも、その意識がわからないからこそ、これを知る目的で世論調査を行っているのだから、全体に似せるというのは原理的に無理な話となる。




世論調査のゆがみを肯定してはならない
 それではどうすればよいか、というのが次に問いになる。ネガティブな答えとしては、これが世論だと開き直ることが挙げられる。投票に行かない人々の声は反映されていなくても大した問題ではない、回答を拒否したのだから結果に反映されなくても構わないと主張するのである。

 これは、世論調査の実施者側がしばしば主張する次のような主張と根本ではつながっている考え方でもある。その主張とは、選挙前の情勢調査(世論調査)を元にした結果の予測がかなりの精度で当たっているのだから、世論調査結果はかなり正確で信頼が置ける、というものである。

 情勢調査がかなりの程度当たっていることは確かであり、その最大の理由が世論調査にあることも間違いではない。実際、前編で比較した北海道知事選に関するRDS法による電話世論調査の投票予定とこれを元にした情勢報道は、結果をかなり正確に言い当てていた。

毎日新聞記事:前夕張市長の鈴木氏が先行、元衆院議員の石川氏が追う 北海道知事選・毎日新聞電話調査

 しかし、情勢調査は投票者の行動を知るためのものであり、有権者全体の政治意識に関心があるわけではない。情勢報道の正確さは投票行動予定回答者の正直さやブレなさに依拠したものであり、世論調査自体の正確さの根拠にはならない。情勢報道の正確性を根拠とした世論調査擁護は、世論=有権者全体の政治意識を調査することを半ば放棄した言説に他ならない。

 そしてこのような考え方は、情勢調査自体にとっても危険な考え方でもある。21世紀に入り行われた国政選挙の投票率は、69.3%(2009年衆院選)から52.6%(2013年参院選)まで大きな開きがある。このような状況では、有権者全体の多くを占める投票に行ったり棄権したりしている人々、政治との関わりが緩い人々、現在は政治から遠ざかっている人々の行動が、選挙結果を大きく左右することになる。

 投票者、政治関心の高い層を過大に含んだ世論調査では、こうした人々の行動を捉え切れない可能性が出てくる。この点はすでに兆候も見られる。近年の国政選挙でのマスメディアの情勢報道では、維新の会系の政党の議席数を過小予測する例が多くみられるが、これは政治関心の低いもしくは中程度の層を世論調査が過小に代表しており、その行動を捉え切れていないことが要因と考えられる。今春の大阪府知事・市長選において、いくつかのマスメディアが維新系候補の圧勝を予測できなかったのもおそらく同様の理由である。

毎日新聞記事:大阪府知事選/大阪市長選 知事選、維新リード 市長選やや優位 毎日新聞情勢調査


より確かな調査方法を模索する
 よりポジティブには、投票者層、政治高関心層を過剰に代表しないような調査を利用する方向も考えられる。

 マスメディア各社の中で時事通信は、唯一、月例の世論調査の対象者を伝統的な層化二段階無作為抽出法により選んでいる。時事世論調査の結果で最も特徴的なのは、「支持政党なし」が6割前後を占める点である。これには、回答の聴取を面接で行っているために支持政党を答えにくいという背景もありそうだが、対象者中に占める回答率が不通話の多いRDS法よりはるかに高いと考えられることや、同調査が政治に限定しない調査であることも影響していると考えられる。わかりやすく言えば、RDS法に比べて政治高関心層が濃縮し過ぎない調査方法となっているのである。

 もっとも、同様の抽出法を用いた明るい選挙推進協会の郵送調査において2017年衆院選投票率が7割を超えていることを考えれば、調査方法を多少丁寧にしたところで“濃縮”は避けられないと考えるべきである。世論調査に答えない背景は、RDS法の電話調査でも層化二段階無作為抽出法の面接調査、郵送調査でも共通の部分が大きいのである。

関連リンク:公益財団法人・明るい選挙推進協会 調査研究事業(意識調査)

 ただ、そうであるとはいえ、より調査対象のベースが広い調査結果を参照することは、RDS法の結果のみを見ていくよりも全体の世論を知る手掛かりとなるはずである。政治から遠ざかる人々の意見をもっと多く含むよう調査法を模索していくことは、十分に意義があるだろう。




棄権層の回答を重く集計してみる
 調査の方法がどのようなものであれ、政治高関心層の過大代表が避けられないのであれば、これを機械的に弱めるしかない。試験的ではあるが、簡単な方法を紹介しておきたい。

 先に述べたように、全体の意識を知りたくて世論調査を行っているのに、調査結果を全体の意識に似せる方向にいじるのは原理的に不可能である。しかし、過去の投票行動であれば全体に似せることができる。つまり、投票者、棄権者、無効投票者の割合を現実に一致させるよう、投票者の回答を軽く、棄権者の回答を重く集計(重み調整、ウエイトバック集計)してみるのである。

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 表4は、ネット追跡調査の内閣支持率を各回答者の投票行動により補正した結果を示している。投票/棄権補正は、各回答者の内閣支持態度の回答に対して投票者0.72、棄権者2.22、無効投票者0.65をそれぞれ掛け、投票態度を表明しなかった場合はそのままとして、集計している。これにより、答えない等以外の3択の比率を現実の結果の割合と等しくさせている。

 表4について元のデータと比較すれば、補正後は支持、不支持ともに割合が低下し、「関心がない」が大幅に増える結果となった。これに加えて投票候補に応じた補正も行ってみたが、投票先の比率は現実に近い値であったため、支持が増え、不支持が減るという小幅な変化にとどまった。

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 表5は、同様の補正を政党支持率について行ったものである。こちらでは投票/棄権補正により「支持政党はない」が過半に達する一方、立憲民主党、自民党の順に支持率の低下幅が大きくなっている。

 二つの表の補正された数字は、いずれも政治を遠巻きに見ている、政治に関わろうとしない有権者の意識を元のデータよりもよく表しているように感じる。ただし、これらの補正の結果が実際の世論を表している保証はない。また、次に示すように回答を“種”にした重み調整には限界もある。

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 表6は、2017年衆院選の比例代表投票先についての回答分布を示している。この表では棄権、無効、答えない等の回答を除いた、政党名選択の中での分布(つまり各党の得票率)を示した。この表からは、元のデータに対して二つの補正はあまり大きな変更を加えないことがまずわかる。これは、今回投票者と2017年衆院選投票者はかなりの程度一致するためである。

 そのうえで実際の結果と比較してみると、かなり際立った違いが見られる。特に、自民党、立憲民主党の得票率は実際よりもかなり高く、希望の党、公明党、新党大地の得票率はかなり低く報告されている。今回のネット調査の回答者が「縮図」から大きくゆがんでいないとすれば、後者の党に本来入れた人々のうち一部は投票先を秘匿したい、もしく忘れたために「答えない/わからない」に行き、一部は自民、立憲に入れたとうそ、あるいは勘違いの回答を行ったと考えられる。

 このように明らかにおかしな回答分布が作られたのは、希望の党と入れたことを恥ずかしいと感じた人が多かったためか、小選挙区と比例代表の違いを理解していない人が多数いたためか、ネット調査の回答者がやはり極端にゆがんでいたためかは、判別がつかない。いずれにしても、こうした不安定な回答は補正で直すことはできず、補正の“種”にするのにも限界があると言える。


政治から遠ざかる人々も世論の一部
 忘れたり、勘違いしたり、うそをついたりと、このような回答者の回答傾向はさまざまに説明されるだろう。確かなのは世論調査に限らずどのような調査でもその回答は安定しないことがよくあるということである。何せ、われわれのようないいかげんな人間が回答するのだから当然である。世論調査に限らず、アンケート調査とはそういうものだという認識は、世論調査から世論、集計結果から人々の意識や行動を理解していく際に前提として念頭に置くべきことである。

 しかしそうであっても、投票者の意見ばかりが反映される調査結果のみを「世論」として認識し、消費するよりも、こうして棄権者、政治低関心層を多く含んだ形の数字も見たほうが、現代日本の政治と社会の関係を理解する方法としてより健全である。特に、政治家や政治部の新聞記者のような政界にどっぷり漬かった人々は、政界から遠い一般の人々が見えず、意識できずに議論をしてしまう傾向があるように思えるからだ。

 そしてだからこそ、有権者全体の意見を表出させることが期待される世論調査には、政治から遠ざかる人々をもっと尊重してほしいと筆者は考えている。たとえそれが、「答えない/わからない」であったり、ころころ変わるいいかげんな回答であったりしてもだ。いいかげんさや政治への無関心も含め、それが現代のわれわれの世論なのだから。

※今回の調査の企画、設計にあたっては、毎日新聞世論調査室から全面的な協力をいただいた。また、ネット調査の設計に際し、新聞通信調査会が中央調査社に委託して行っている「メディアに関する全国世論調査」の結果を利用させていただいた。ここに感謝の意を表する。



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posted by suga at 22:30 | 分析記事