前エントリで示した制度と状況を野党が打破するためには、都議選の分析で指摘したのと同様、選挙協力を行う必要がある。参院選挙の歴史上、1人区で野党が自民党に対し勝利を収めたのはわずかに2回、89年と07年のみだが、このときは野党各党が協力し戦っている。拙著『世論の曲解』で述べたが、対抗馬が明確になれば票が流れ込む。逆に自民党圧勝が予定されていれば、棄権票を増やすだけだろう。
もちろん、基本政策が異なる政党同士が単純に協力をすることは困難でもある。たとえば共産党がみんなの党の候補を支援するようなことは難しいと思われる。ただ、それでもある程度協力しなければこの1人区のハンデキャップを克服することは難しい。参院選は半数改選であり、次回選挙で野党側に風が吹いたとしても、今回の選挙で大差を付けられては安定政権樹立は困難である。
それぞれの政党の議席数、プレゼンスは、他党の勢力の影響を受ける。現在の状況では、他野党が自民党の勢力を退けるのなら、その政党と基本政策が相いれなかったとしても、自党と自党の支持者にとってはプラスになりうる。支持者の利益を実現するために政党が存在するのだとすれば、政権を目指す野党各党が座して死を待つのは、支持者に対する裏切りである。
基本政策上の不一致は、野党である限り大きな問題にはなりにくい。政策が実行されないからである。しかし、たとえば憲法96条改正のような問題で、他野党が賛成に回る危惧は確かにある。そうであるなら、協定を結び、明示的に一定の制約を課した上で協力する形式にすればよいだろう。つまり、協力の下で当選した議員や当該政党全体は、憲法改正に繋がる一切の政府与党の動きに組しないと約束すればよい。共産党を例にすれば、大量の議席を安倍自民党に与えるか、一定の歯止めをかけた民主党やみんなの党に与えるか、どちらがよいかという問題となるだろう。
一方、協力のための大義名分も必要である。その際には、ここで議論した小中混合制も含め、選挙制度改革が旗となりうる。実は、衆議院選挙制度改革を巡って各党から出された提案は、似通っているところもある。たとえば共産党とみんなの党は、どちらも比例代表制を基本とする提案をしている。『Voice』2013年6月号の時評「なぜ選挙制度改革論議は空疎なのか」で述べたように、阻止条項の導入など、これらの提案はもう少し練るべき点があると筆者は考えるが、方向性としては一致する部分がある。自民党一党優位体制を支える歪んだ選挙制度を改めるという点では、野党各党の思惑は一致するのである。こうした共通項を探し出し、掲げることができれば、協力は進展するだろう。何より、各党の支持者、特に都市部の若い有権者にとっては利益をもたらす動きとなるはずである。一方、協力しない理由があるとすれば、リーダーの保身や事なかれ主義ということになるだろう。
※なお、一票の格差の問題についてはこちらのエントリにある記事等を参照されたい。
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2019年7月22日追記
以前アップロードしていた記事を再アップロードしたものです。正確には、ハフィントンポストジャパンに転載されたものを再転載しています。
最近も同じよう観点からデジタル毎日の「政治プレミア」で解説しています。
野党統一候補は目的ではない 「自公打破」以外の意義を 長妻さん「選挙制度」寄稿に | 菅原琢さんのまとめ | 菅原琢 | 毎日新聞「政治プレミア」
野党が候補を一本化する意義は? 「仲たがい」どうすればいい? | 長妻さんの寄稿に一言 | 菅原琢 | 毎日新聞「政治プレミア」
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