2017年11月15日

若者が自民党を支持しているって本当?第1回――出口調査から若者の世論はわからない

 最近、若者が自民党を強く支持しているといったニュースや記事をよく見かけます。先日もある出版社に赴いた際に編集者の方とその話題になりました。いやあれはデータの見方が怪しく・・・とお話をしたところ、すでにあるライターの方にその件で記事を書いてもらっていて、どうなっているか不安だという話になりました。まあ、実際にそれを読んでみたところダメだったみたいですが。。。

 そういうわけで、一度この問題についてデータを整理して置いておこうと思います。結論を先に言えば、巷で言われている、若年層が高齢層に比べて強く自民党を支持しているようなことはありませんでした。


■拡散する「若者は自民党を強く支持」説
 まず参考までに、検索して見つかった記事を挙げておきましょう。

衆院選:若者層は保守的? 内閣・自民支持多く(毎日新聞)
衆院選:10代有権者、野党に厳しい目 政権交代できた…(毎日新聞)
18・19歳、自民に4割傾く 立憲民主は高齢層支持多く(日本経済新聞)

 個人的な印象ですが、衆院選前後この件で一番熱心に報道を繰り返しているのは毎日新聞のように思います。一方、読売、朝日等の他紙は、少なくとも本紙の記事ではあまり踏み込んでいない印象です。若年層が自民党を「リベラル」と見ている読売・早大調査の結果が少し話題になりましたが、これは別の議論ですね(ちなみにこの傾向は今に始まったことではないです)。

 ただしネット上でこの話題が大きく広まったのは、投票日当日の出口調査結果がソースで、その拡散源はテレビのようです。代表例としてNHKの記事を置いておきます。

出口調査から見える衆院議員選挙(NHK)

 以上のような新聞や通信社による世論調査や出口調査の結果とその報道を受けて、いろいろな識者の方々もいろいろなことを述べています。これも目についた代表例を挙げておきます。

薬師寺克行「若者の自民党支持率が高くなってきた理由 2012年が転機、保守化ではなく現実主義化だ」東洋経済オンライン
高橋洋一「若者の「自民党支持増」はなぜか。左派系メディアにかわって教えよう」現代ビジネス
池田信夫「若者はなぜ自民党を支持するのか」アゴラ
西田亮介「若年層の内閣支持率はなぜ高い?」イミダス
松村愛「なぜミレニアル世代は「首相はずっと安倍さん」を望むのか」現代ビジネス

 探した中で、メディアの世論調査等の受け売りでなく、ある程度まともに論じようとしているのは次の記事くらいです。ただし、2017年衆院選で急激に広まった「若者は自民党を支持している」説に対する直接的な回答にはなっていませんし、ここで用いられている明るい選挙推進協会の調査は調査方法が近年変更になったことなどを留意したいところです。

島澤諭「若者は本当に自民党を支持しているのか」WEDGE_Infinity

 このほか、有象無象のネットメディア、「まとめ」サイトやブログ記事が多数見つかります。「実際に若者に聞いてみた」系の記事なんかもいくつか見つかりますね。扱っても有益でないのでいずれも割愛しますが。


■原因を主張する前に結果を精査すべき
 こうしたウェブ上の記事を読んでいって面白いのは、普段はマス・メディアの世論調査、あるいはマス・メディアそのものを信頼せず、非難したり馬鹿にしたりしていそうな界隈の方々も、この件に関しては大手マス・メディアの世論調査や出口調査を元にして、あるいは受け売って、自説を展開しているところでしょうか。

 先にフォローとして述べておくと、上で挙げた記事もネット上の他の論説も、全部がダメというわけではないです。そのいくつかは後で述べます。問題は、元の調査結果を額面通りに受け取った上で、いろいろな理由や意味をそこに盛り過ぎているところです。メディアの政治世論調査の数字に、積極的な理由をもとめるのは多くの場合間違いです。政治について語る論者の多くは政治に関する知識が豊富で、自身の判断もさまざまな情報をもとに積極的に行う人でしょう。一方、調査に答えるごく普通の有権者はそうではなく、まして若年層の大半は全く異なります。世論調査の誤解や曲解は、往々にして分析者が真面目でハイスペックな回答者を想定するところから生まれます

 対象となっている現象の要因をあれこれ考える前に、まずその現象が本当に存在しているかどうか考えましょうというのは、分析をする際に注意点として学生にときどき言うことです。生じていない「結果」について、あれこれ原因を探り続けたって答えは見つかりません。計量分析では特に、従属変数(結果を示す数字)がどのような性質の、どのような背景を持って生まれた数字なのか、確証バイアスを排しながら考えていく必要があります。

 ただし、数字を一切信用しないという態度を採ったら今度は何もわかりません。出てきた数字がどのような意味を持つのか、どのように解釈できるのかを、きちんと考えようということです。以下、いくつかのデータを示しながら考えていきます。


■出口調査結果は有権者内の支持率を教えない
 まず、決定的「証拠」として登場する出口調査結果について考えてみます。世論調査に関する議論よりもわかりやすいうえ、これがわかれば「自民党を支持する若者」論の根拠の“相場観”のようなものも掴めるでしょう。

 いきなり結論ですが、出口調査結果における若年層での自民党得票率の高さは、若年層の自民党支持率の高さを示すものではありません。出口調査の数字はあくまで投票に行った人の中での得票率を示すものです。周知のとおり、年代別の投票率は若いほど低いため、仮に出口調査での若年層の自民党得票率が高くとも、若年層全体の中では高くはありません。

 このことは、年代別の投票率に出口調査の得票率を掛けた数値を見ればわかります。選挙分析の世界で絶対得票率と呼ばれている指標を疑似的につくり出して確認するわけです。ただし、2017年衆院選の年代別投票率(抽出集計)はまだ公表されていないため、ここでは2014年衆院選の数値で代替することとします。両選挙の投票率は大きく変わらず、近年の国政選挙における年代別投票率の傾向に大きな変動はなく、今のところ若年層の投票率が急上昇したとするニュースもないため、ここでの議論ではこれで十分でしょう。

 図1は、年代別投票率、2017年のNHKと朝日新聞の出口調査における年代別自民党得票率、およびこれらを掛け合わせたものを示しています。この図を見ると、出口調査の年代別自民党得票率は若いほど高い一方で、各年代の中での絶対得票率は逆に高齢層ほど高くなっています。投票者の中で見れば、若年投票者における自民党得票率は高いと言えても、若年有権者一般において高齢層に比較して自民党の得票率は高いとは言えないということになります。



 もちろん、得票率と支持率は異なるものです。自民党に投票した人の割合が若年層ほど低かったとしても、自民党支持率は若年層ほど高いという可能性もあります。でも結局それは、投票所に向かわせるほどの支持は存在しないことを意味するに過ぎません。だとしたら、若年層の自民党の支持の背景や意味を云々するような、積極的な意味をそこに見出すことは難しいでしょう。「アベノミクスによる好景気が若者を安倍自民党支持に〜」と論じ、「若者は戦争のできる国への道を自ら進んでいる」と危惧する根拠が、「選挙に行って投票することはしないけど、世論調査で聞かれたらとりあえず/仕方なく/なんとなく/よくわからないので自民党支持と答えている人々」の割合ということになりますから。

 なお、出口調査は世論調査同様に回答拒否等の影響があり、そもそも出口調査自体が有権者の縮図を目指したものでないため、ここでの年代別得票率の値は真の値に比べてある程度歪んでいることには注意が必要でしょう。

 出口調査の目的はあくまで各小選挙区の当落予測のためです。結果予測精度が保たれるなら、有権者の縮図に拘らず、より費用対効果の高い回答の集め方を採用します。出口調査は投票所に調査員を張り付ける、非常にコストのかかる事業であるため、比較的多くの投票区が除外されています。以下の文献の例はメディア各社の中ではおそらくかなり真面目にサンプリングを行っているほうの例ですが、それでも文献図3の横軸に見るように投票区除外でカバレッジが6割近くに落ちることもあるようです。

福田昌史「出口調査の方法と課題」『行動計量学』第35巻第1号、2008年(pdf)

 農村集落等の小規模投票区の除外は、得票率予測の精度に影響を与えない場合でも、各年代別の回答傾向に影響を与えるかもしれません。たとえば、自民党支持の農村部の高齢層は抜けやすく、都市部の全共闘世代がより多く代表されるといったようにですね。

 なお、世論調査の支持率等において、自民党の数字がより大きく報告されている可能性についてはかつて論じたことがあるので、興味のある方はそちらもご参照ください。

菅原琢「安倍政権は支持されているのか――内閣支持率を分析する」中野晃一編『徹底検証 安倍政治』岩波書店、2016年(amazon)


■次回予告
 ここまでで基本的な議論は終わりです。しかし、なぜ若年層で自民党支持率が高いのに選挙ではみんな棄権してしまうのか、という疑問が湧くかもしれません。次回は、世論調査結果のデータを確認してみたいと思います。

次回:若者が自民党を支持しているって本当?第2回――世論調査では20代の自民党支持率は高くない
posted by suga at 15:29 | 分析記事